内定者を対象にSNSの利用について企業側がメッセージを伝える際に大事なこと
SNSの利用について内定者を対象に企業側がメッセージを伝える際に大事なこと
~六甲法律事務所 弁護士 松田昌明先生よりメッセージをいただきました~
ーSNSの利用について感じることをお聞かせください。
情報を広く発信できること、会ったこともないような人にむけて、情報を広く発信できるというのはSNSの大きなメリットだと思います。自分自身の意見を発信すること、宣伝や広告、イベントの告知など、お金をかけず広く発信できる便利なツールとも言えます。
また初めて会う人や古くからの知り合いとも関係性を維持できるツールとして便利ですね。なかなか会えなくても関係性を維持できるように感じられます。
SNSで自分自身が使っているのはFACEBOOK(以下FB)、TWITTER(以下ツイッター)とINSTAGRAM(以下インスタ)。
学生はFBをあまり使っていないように感じます。見るだけなのかな。ツイッター、インスタを利用している学生の方が多いように思います。
-なぜSNSでは批判的、攻撃的な発信が起こるのでしょうか。
自分自身、微妙な意見、批判が想定されるような意見については、書く前から「批判が起きるのではないだろうか」とSNSでの発信をためらうことがあります。
特にツイッターでは匿名の方が多いので、表現が荒くなってしまう傾向があるように感じます。集中的に誰かを責めるとか、普通に読んだら批判するようなコメントに対して過剰な攻撃をしてしまうとか、そんなやりとりを目にすることが多いですよね。日常生活であれば言わないような表現をしてしまう。他の人もしている攻撃だから自分もしてしまう。本来対面していたら声に出さない言葉を発し、正義をふりかざすような形で人の権利を侵害することは誰にでもありうることなので、本当に怖いなと思います。
最近ではあおり運転の加害者の同乗者として誹謗中傷が集中した方が別人だったということがニュースになっていました。ちょっとした正義感から暴走するリスク、この点については個人個人が気をつけないといけないことです。
ーSNSでの違法という点について教えてください。違法な投稿、違法な行動の投稿の双方があると思うのですが。
写真ベースのSNSでは、芸能人の写真を勝手に使ったりしてしまう。芸能人側がわざわざ注意するかどうかは別として、社会人として気をつけるべきですね。他には他人の写真を勝手に使うとか。肖像権、著作権、などを侵害している事例です。違法の意識すらないまま、やっている人の数がすごく多いです。また、周囲に迷惑をかけるような、ふざけている動画が投稿されると海外でも国内でも問題になることがあります。 友人との関係性の中で楽しんでいるうちは許されることでも、不特定多数の人に発信すればそれはセンシティブで、自分にも内定先にもダメージを与えてしまうことになり、小さな話ではすまなくなる危険性があります。
そういう点では自分のアカウントが公開設定(誰でも投稿を見ることができる)なのか非公開設定(公開先を限定している)なのか、その点を踏まえて投稿する際に判断していくことは重要だと思います。「この内容を不特定多数、全世界の人に伝えても本当に大丈夫な内容か?」と考えて判断する力が必要な時代だと言えます。企業側からすると内定者一人ひとりにその意識、力を持っていてもらいたいと思うのではないでしょうか。
ー企業側は内定者にどうかかわり、どう働きかけていけばよいのでしょうか。
「SNS自体をやめなさい」と頭ごなしに言うと、反発するでしょう。今は自由に発信できる時代。もしそのようなことを言ってみたところで、内定者からすれば「何でも禁止するような会社」というレッテルを貼ってしまうだけで、ほとんど抑制させる効果はなく、お互いにマイナスしかありません。まずは頭ごなしの否定をやめて、一人ひとりの内定者を尊重する姿勢を示し、そのやりたいことを受け入れることが大切でしょう。企業側が利益を守りたい、ダメージを回避したい、ということで押し付けるのではなく、内定者の未来と企業の未来を守るためにここを最低限守ろうという姿勢で接していくことが重要だと思います。
特に、学生の時の発信はほとんど業務に関連しないもので、基本的には日常生活の話です。企業がプライベートまで踏み込むのもよくありません。発信は本人の権利であり、踏み込みすぎないことも大切です。内定者を個人として尊重しつつ、その人のために守った方がいいことを社会の先輩からのアドバイスというニュアンスで伝えるのが一番伝わるんじゃないかなと思います。
また、内定者が会社からSNSの利用に関してレクチャーを受けたとしても先輩のアカウントを見つけた時に「先輩、これおかしいんじゃないの?」という状態も避けるべきです。会社に浸透していないものを押し付けようとしても納得感は得られません。また、社員の投稿によって炎上が起きてからの後追いの対応では遅いと言わざるをえません。就業規則に社内のルールとしてSNSの利用に関して明記し、周知し理解を促しておきましょう。内定者への教育と社員への教育、社員が先という順番が望ましいのですが、同時並行でも構いません。教育に取り組むことが重要です。
ー会社によって出すべきメッセージは異なるのでしょうか?
SNSを広告ツールとして利用している企業はフォロワーを増やす努力をしているものです。その中でも内定者にも同様の感覚を持って発信してほしいという企業もあれば、リスクを避けたいので、発信はなるべく控えてほしいという企業もあるでしょう。例えば、BtoBで、取引会社との契約で動いていて、情報を外に発信してほしくないという企業であれば、SNSには原則会社のことは書かないでというスタンスのはず。ルールのスタート地点は企業によって変わってきます。その違いには大きな幅があります。他社と同じにしなければ、と考えるのではなく、自社の特徴を踏まえてルールづくりを行ってください。また、ケースバイケースでこの場合はどうするのか、ということを考え、社員が同じ目線に立って捉えられるようになることを目指していただくとよいのではないかと思います。
ー最後に内定者に関わる方へメッセージをお願いします。
実施の準備として、法律の勉強から始めようと思う方がいらっしゃるかもしれませんが、まずは実際にSNSを使ってみることが重要です。特に使ったことがない方はどういうものなのかSNSの特徴もつかむ。SNSによってどういう問題が起こりやすいのかを理解する。炎上するという問題と違法かどうかという問題はイコールではないことも頭においておくとよいでしょう。どういうものが違法で、どういうものが炎上しやすいのか、というのを整理できれば、内定者に伝える際にも混乱を防げるでしょう。人事の方、採用担当の方で、共通認識を持つこともポイントです。
それから実際に研修でセッションを実施する場合には、これは違法、アウトだという領域は線引きをしっかり伝えておきましょう。そこから先のグレーな部分、もしかしたら炎上するかもしれないという部分は、本人に慎重に判断してほしいという期待が伝わるといいですね。リスクを伝えて、リスクを考えてほしいと言う方がわかりやすいでしょうか。
基本的には、個人の意見を尊重していくこと。会社としてもそのスタンスを忘れずに取り組んでください。プライベートに踏み込むことではありません。内定者にも会社にも不利益がないように、自分たちを守るために知っておくべき内容だという意識を常に持って関わっていくためにツールを利用し、会社からルールをおしつけるものではないということが内定者に伝われば、入社後の姿勢につながっていくでしょう。
(2019年10月3日 インタビュー 足立美穂)
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